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1.イントロ

5次以上の代数方程式には解の公式がないことを、ガロアは現在ガロア理論と呼ばれる方法で証明しました。
ガロア理論は、現在では数学の様々な分野で理論のひな型として利用されていて、広い意味を持っています。
ここでは、代数方程式の解の公式に関する狭い意味でのガロア理論について、飲みながら語ったことをまとめておきます。。

代数方程式とは、「(多項式)=0」の形の方程式のこととします。
一番有名な代数方程式は、2次方程式でしょう。
ax^2+bx +c=0 (a!=0))
というものです。
そしてこの解の公式も有名で
(-b+-(b^2-4ac)^(1/2))/2a
で与えられます。

このような公式は、3次、4次までは16世紀に知られていましたが、5次方程式についてはそれ以後見つかりませんでした。
そして、結果的には、そのような公式を書き下すことができないことが19世紀初頭に証明されました。

「公式の存在」は、実際に与えてしまえば証明できますが、「公式が存在しない」ということをどのように証明するのでしょうか?


2.問題設定:代数方程式と根の関係と解の公式とは? 体の導入。

解の公式は、係数に加減乗除と根号の演算を適用して、解を得る計算式です。

解の公式は、「係数のある数の範囲」から、「解のある数の範囲」に、根号だけでたどり着く道です。
解の公式があるとき、「係数のある数の範囲から根号を追加してたどり着ける範囲」が「解のある数の範囲」を含んでいる、と解釈できるでしょう。
逆に解の公式がないとは、解のある数の範囲が係数のある数の範囲から根号を追加してたどり着ける範囲からはみ出している、と解釈できます。

このような状況を厳密に記述するために、体(Field)というコンセプトが導入されました。

体は、ざっくりいうと加減乗除の演算で閉じている集合です。(厳密にといいながら、ざっくり、、、適切なソースを参照してください)
有理数の集合と通常の演算は、有理数体と呼ばれる体でQとかかれます。
実数全体、複素数全体もよく知られた体で、それぞれR,Cという記号で記述されます。
加減乗除と書きましたが、減は加(=和)の逆演算、除は乗(=積)の逆演算というように考えて、加・乗・逆(inverse)で定義されます。
*現代的な体は、ガロアの時代にはなかったようですが、相当するコンセプトがあったそうです。

よく知られたQ,R,C以外にも、人工的に多くの体を作ることができます。
まず、Cを考えると、複素数は√(−1)であるiをつかってa+bi(a,bは実数、Rの元)と書ける数です。
そこで、Rにiを追加(添加するという)した体(R(i)と書く)というように、「Cは人工的にRを拡大して作った」といえます。
このように、既存の体に要素を添加して新しい体(すこし、大きくなる、拡大体 field extension)を作ることができます。
このとき、Cを1とiを基底ベクトルとするR上の2次元ベクトル空間見ることができて、次元を拡大次数といいます。

この見方を使って、Qに√2を添加してQ(√2)という体ができます。これは a,b,をQの元としてa+b√2と書かれる数全体
{ a+b√2; a,b  です。一瞬割り算をすると (a+b√2)/(c+d√2) なので、除算で閉じていない(集合からはみ出してしまう)ように見えますが、
分母の有理化(分子分母にc-d√2をかける)と、分母の√2が消えて有理数になるので、結果としてa+b√2の形の数になります。

√2は、x^2-2=0という方程式の根なので、Q(√2)でx^2-2=(x-√2)(x+√2)と1次式に因数分解できます。
Qでは、1次式に分解できないx^2-2が、Q(√2)では1次式に分解できる、ということです。
このように、方程式が1次の因子に分解する体を、分解体(splitting field)といいます。

また、有限集合が体になることもあります。有限体(finite field)といいます。{0,1}からなる集合F_2は、加減乗除で閉じていて、体になります。
pを素数とするとき、q(=p^f) 個の要素を持つ集合を体にすることができます。これはガロアが考えたということでガロア体とも呼ばれます。
数学の世界ではF_q,情報科学ではGF(q)と書かれます。

さて、解の公式があるか?どのように作るか?という問題をを体のことばでいうと、
Q上の代数方程式の解の公式は、Qに根号で表せる数を段階的に添加して(正確にはx^n-aという形の方程式の分解体)、
多項式が1次式に分解するような体(分解体=方程式の根をすべて添加した体)を含む拡大体を構成できるか?
* x^n-aの分解体は、1の(原始)n乗根u_nと、b=a^(1/n)をつかって、K(u_n, b )という形にかけます。
{b,b*u_n, b*u_n^2,,,,b*u_n^(n-1)}が、x^n-a=0のすべての解になるからです。
と、言い換えられます。

この言いかえによって、解の公式の存在に関する問題は、体(の拡大)という代数的な構造によって明確に記述することができました。
しかし、このような体の拡大列が存在するかしないかを判定することは、困難です。
ガロアはこの問題を、群に転写することによって解決するという、大変に画期的な方法を提案しました。


3.根の置換と群 

*置換は”ちかん”という読みがあまり現代社会ではよろしくないという話もあるそうですが、とりあえずここでは置換を使います。

群(Group)は、集合に1つの2項演算が用意されていて、かけても変化しない単位元(1みたいなもの)、逆元(1/aみたいなもの)、
演算の結合律を満たすものです。
集合が有限の場合、有限群といいます。
群は、ある対象から、その対象自身への写像の集合、を抽象化したと考えられます。

定義だけではとりとめもないですが、たとえば、次にあげる文字列の置換全体の群がかんがえられます。
方程式に関係ある群としてガロア群というものがあります。

長さがnの文字列を並べ替える変換を、置換といいます。
たとえば、a b c3文字からなる長さ3の文字列は3!(=6)個あります。
abc, acb, bac, bca, cab, cbaの6個の文字列です。
元の文字列をabcとするとき、この6種類の文字列をそれぞれ文字を並べ替える変換を適用した結果と考えると、6個の変換が定まります。
この変換の集合を{s1,s2,s3,s4,s5,s6}とするとき、これは群になります。3次対称群(S_3)とよばれます。
変換は、合成できるので、この合成を群演算とします。
何も変えない単位元s1 bcを入れ替えるs2、さらにs2*s2=s1なので、s2は自分自身が逆元になります。
また、{s1,s4,s5}も同じ演算で閉じているので、群になります。S_3の部分集合で、群なので、S_3の部分群である、といいます。
さらに、この部分群は、abc->bca->cabと、文字を巡回させているので、巡回群といいC_3(cyclic group)と書きます。

ガロア理論では、方程式の根の置換という群を考えます。
たとえば2次方程式のばあい、r1,r2という2つの根があったとき、解と係数の関係からx^2-(r1+r2)x+r1*r2=0の根です。
r1,r2は、(-b+-√(b^2-4ac))/2aの+、−のどちらかを表しますが、どちらをr1,r2にするかは方程式には影響はありません。
なぜなら、r1+r2,r1*r2は、「文字列の置換に対して不変」だからです。
この群は2次の対称群S_2で、{ab,ba}という2つの変換の集合です。
これを2次方程式のガロア群といいます。
x^2-2=0のとき、根は{√2, -√2}(これは集合)なので、ペア(順序が重要)(√2, -√2)をどう変換するかが、ガロア群です。
ab:(√2, -√2)->(√2, -√2)
ba:(√2, -√2)->(-√2, √2)
からなるS_2がガロア群です。
体のことばにも翻訳できます。
変換baは、Qの拡大体Q(√2)->Q(-√2)という体の写像に対応します。
ここで、Q(√2)=Q(-√2)なので、baはQ(√2)->Q(√2)の写像です。これをQ(√2)の自己同型写像(automorphism)といいます。
このような拡大をガロア拡大といいます。

じつは、ガロア群は体の言葉に翻訳する場合は、ガロア拡大であることが条件になります。
群は、自分自身への変換の集まりであるため、変換の行き先は自分自身にならなくてはなりません。

これを満たさない、NGな例としては
x^3-2=0=(x-b1)(x-b2)(x-b3)
の根の1つ2の3乗根 b1=2^(1/3) をQに添加した体Q(b1)は、Qのガロア拡大ではありません。
なぜなら、根の置換によってb1->b2という変換がガロア群に含まれていなければならないのですが、
Q(b2)はb1*((1+√3i)/2)という複素数になってしまい、Q(b1)には含まれない、すなわちQ(b1)!=Q(b2)になって
自分自身への写像ではなくなってしまうからです。
分解体は常にガロア拡大です。したがってQ(b1,b2,b3)はガロア拡大です。

3次以上の時、方程式のガロア群の可能性は2つあり、S_3かC_3です。x^3-a=0の場合C_3になります。一般的には、S_3になります。
言い方を変えれば、S_3をガロア群にもつ3次方程式が存在します。

ガロア群は、体そのものではなく拡大に関して考えられるものなので、拡大をL/Kという形で書き、そのガロア群をGal(L/K)などと書きます。
たとえば、
Gal(Q(√2)/Q)=S_2
です。